コラム
思春期は「親との決着をつける時」②
2025.10.10
小さい頃から“いい子”に見える子どもほど、実は心の中でたくさんの我慢をしています。親の期待に応えようと頑張り、弱音を吐かず、困らせないように気をつけて…。Tさんの長男も、そんな「いい子」として育ってきました。だからこそ、お母さんに気づいてほしかったのです――「ぼくはずっと我慢してきたんだよ」と。
けれども、お母さんはその気持ちに長い間気づくことができませんでした。思春期になって長男が突然学校に行けなくなったのは、「もう限界だよ。お母さん、気づいて!」という心の叫びだったのです。
さて、私はTさんに「『ごめんね、あなたの気持ちに気づいてあげられなくて』と伝えてください」とアドバイスしました。Tさんは食事を運ぶたびに、その言葉を3回ほど繰り返したそうです。すると、なんと翌々日の夕方、長男が部屋から出てきて、何も言わずにリビングの椅子に座ったのです。
驚いたTさんは動転して、何を話していいかわからず、トイレに駆け込んで、「どうしたらいいでしょうか?」と、私に電話をかけてきました。その時も「とにかく息子さんの話を聞いて、気持
ちに寄り添って下さい」と伝えました。
その後、Tさんは「そうだったんだね」「嫌な気持ちだったんだね」「悔しかったんだね。気づいてあげられなくてごめんね」と、息子さんの言葉にただただ寄り添いました。次の日も、その次
の日も、長男は夕方になるとリビングに現れ、「お母さんは僕の気持ちをわかってくれなかった」と繰り返し話しました。Tさんは黙って聞き続け、だんだんと息子の気持ちが自分の胸にもし
み込むように感じたと言います。
ある日、「親としてあなたのつらい気持ちをちゃんとわかってあげられなくて本当に申し訳なかった。心から謝るね」と伝えると、長男は「もういいよ。お母さんの気持ちはわかっているから」と言ってくれたそうです。
それをきっかけに、長男は再び「もとのいい子」に戻りました。ただ、Tさんは講座で学んだ「勇気づけ」を続けました。「もう二度と部屋に閉じこもってほしくない」という一心で。
その後、長男は通信制高校で単位を取り、自分で決めてオーストラリアの大学へ留学することになりました。
フォローアップの日、Tさんは「気持ちを受け止めるのは初めは難しかったけれど、息子が変わっていくのを見て本当にびっくりしました!」と嬉しそうに話してくれました。そのときのTさんの笑顔は、まぶしいくらいに輝いていました。
(文責:野中 利子)