コラム
子どもは親の作品 ? ①
2024.08.04
16歳の娘が拒食症になり、そのお母さんのカウンセリングを引き受けていた時の話で
す。最後のカウンセリングで子育てを振り返り、お母さんは次のように言いました。「私
は自分の作品を作っているような気持ちで、子どもを育てて来たのかもしれません」
子どもの頃からいわゆる「いい子」で、手がかからなかった自慢の娘。その娘が念願の
志望高校に入学し、ホッと一息ついた初夏の頃、母親は娘の異常な痩せに初めて気がつい
たのです。食べ盛りのはずなのに、食事を摂る量がほんの少しで、自分が決めた分量だけ
しか食べません。娘の痩せは周りにも気づかれるようになり、しばらくして月経も止まり
ました。心配のあまり、嫌がる娘を連れてあちこちの医療機関を訪れたそうです。ある医
療機関で、親の育て方がおかしいのではないかと言われ、母親は随分傷ついたと言いま
す。
当初のカウンセリングでは拒食症の心配、そして次々に現れる娘の症状や家庭での不思
議なこだわりの様子が語られました。例えば、夜が明ける前に必ず家中のカーテンを開け
る。雨が降っていても毎日玄関に水を蒔いて掃除をする。やがて家の中のことは何をする
にも娘の許可が必要になり、母親だけではなく他の家族も困るようになりました。毎日が
こんな風ですから、みるみる家族は限界に達し、とうとう娘は家の近くのアパートで一人
暮らしを始めることになりました。母親は娘の一人暮らしを心配しながらも、少しずつ娘
との距離をとることで、娘に振り回されず、またいろいろな選択や決断も娘に任せること
ができるようになってきたのです。
(文責:野中利子)