コラム
いつまでも、あなたのことが大好きだよ!
2024.07.28
「子どもの頃、お母さんは私を叩いたでしょ!」大学進学のために家を離れる前の晩、
誰もいない居間で長女がそう言った。そうだった。ずっと昔、私はこの子を叩いた。今思
えば、どうしてあんなにイライラしていたのだろう。どうしてこんなに可愛い子を叩いた
りしたのだろう。たぶん、初めての子育てで、立派な子どもに育てなければならないと気
負っていたのかもしれない。
「ごめんね。叩いたりして・・。ほんとうに未熟なお母さんだったね」そう言って私は
謝った。「あの時の叩かれた痛さと、お母さんの鬼のような顔を私は一生忘れないよ。お
母さんを一生恨むからね」娘は悔しそうにそう言った。娘から恨まれても仕方ない。自分
がまいた種だもの。私は娘を叩いたことをずっと悔やんでいたのだ。いつか謝らなければ
と思っていた。それが今なのだ。ここできちんと謝らなければ、私と長女はこれから先も
苦しみを抱えて生きていくことになる。それは何がなんでも避けたい。「本当にすみませ
んでした」と、深く頭を下げた。私は素直な気持ちになって心から長女に詫びることがで
きた。そして娘に向かって、「あなたが一生お母さんを恨んでもいいよ。でも、お母さん
はあなたを一生愛していくよ。お母さんは、あなたのことが大好きだよ!」娘は泣いてい
た。そして私も泣いた。
しばらくすると、娘は何かを振り切るように言った。「もう、許してあげる・・・。も
う許しちゃったい!」そう言うと、自分の部屋に帰っていった。私は心の奥にずっ~と沈
んでいた一塊の氷がス~と溶けていくのを感じながら、娘に謝れてよかったと思った。
親は完璧ではない。間違ったことも失敗もする。私は娘を叩いたことをずっと後悔して
いた。いつか謝らなくては・・・と思っていた。けれど、今までそのチャンスを見つけき
れずにいたのだった。きちんと決着をつけなくてはいけないと思っていたのは私だけでは
なかったのだ。
次の日、長女は大学生活のために家を出て行った。きれいに片付けられた長女の机の上
に手紙が置いてあった。その手紙には「私を産んでくれてありがとう。お母さんの子ども
に生まれてきて良かったです。今まで育ててくれてありがとう」と書いてあった。
(文責:野中利子)